インプラント治療は外科治療のひとつですので、手術に伴うリスクファクターがあり、それに当てはまると治療が難しくなる可能性があります。
インプラント治療を希望される方は、若い方だけとは限りません。
高齢の方がインプラント治療を考えるときに気にされるのが、年齢制限があるかどうかです。
今回は、インプラント治療と年齢制限についてお話しします。

インプラント治療と年齢の関係

まず、高齢者の方がインプラント治療を受けられるのかどうかについて説明します。

インプラント治療に年齢は関係ない

高齢であることを理由にインプラント治療が受けられないということはありません。
インプラント治療の適応基準に”年齢”は入っていないからです。
言い方を変えると、適応基準に合わなければ若い方でも受けられないかもしれませんし、適応基準に合えば後期高齢者に当たる方でも受けられるということです。

インプラント治療の適応基準について

適応基準とは、簡単にいうとある病気に対し治療を受けられるかどうかの境界です。
実は、インプラント治療の適応基準は明確ではありません。
なぜなら、インプラント治療は”治療”といっていますが、病気を治療する術ではなく、リハビリテーションの一種だからです。
例えば視力の低さを回復させるとき、メガネ、コンタクトレンズ、レーシックのような手術などのさまざまな選択肢があります。これらはいずれも視力矯正のためのリハビリテーションの一種です。
メガネにするのか、コンタクトレンズにするのか選び方に明確な基準はありません。
これと同じく、インプラント治療にも明確な適応基準はなく、インプラント治療を受ける方の希望を叶えることができるかどうか、インプラント治療にリスクがあるかどうかを基準にします。
年齢でインプラント治療の可否が決められないのは、これが理由です。

インプラント治療のリスクファクター

高齢の方にとってインプラント治療を受けるにあたり注意が必要なのは、全身疾患です。
年とともに全身疾患にかかりやすくなる上、全身疾患によってはインプラント治療のリスクファクターとなることがあるからです。

高血圧症

現在、30代以上の日本人の50%ほどが高血圧症の基準を超えているそうです。
高血圧症の原因は動脈硬化です。
このため血圧が高ければ高いほど、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎臓病などになりやすくなり、死亡率も上がります。
インプラント手術を受けるとき、ストレスが高まります。
ストレスは血圧上昇を引き起こします。
血圧上昇は心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、腎不全などのきっかけとなりうるため、インプラント手術では高血圧症が手術時のリスクファクターになります。

糖尿病

現在、糖尿病や糖尿病が疑わしい人は日本全体では900万人弱いると言われています。
糖尿病になると、全身の細胞にエネルギー源となる糖を取り込ませる役割を持つインスリンが不足します。
このため、糖尿病になると全身のエネルギーが足りなくなり、臓器に障害が生じます。
コントロール状態の悪い糖尿病の方の場合、インプラント手術時に低血糖になることがあり、重度の低血糖では意識障害を認めることもあります。
逆に、手術中のストレスによりアドレナリンの分泌が促され高血糖を起こすケースもみられます。
糖尿病の方はインプラント手術時に低血糖、高血糖のいずれにもなりやすいので、糖尿病もインプラント手術時のリスクファクターのひとつに挙げられています。

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンを過剰に分泌する病気です。
甲状腺ホルモンの数値が高い方が、インプラント手術を受けると、手術中のストレスにより、甲状腺ホルモンの量の多さに臓器が耐えられなくなることがあります。
これを甲状腺クリーゼといい、体温が上がるだけでなく、脈拍も速くなり、意識障害が生じます。
同時に、心臓の機能も低下するため、大変危険な状態に陥ります。
このため、甲状腺機能亢進症もインプラント手術におけるリスクファクターに数えられています。

副腎皮質機能低下症

副腎皮質機能低下症は、副腎の萎縮や破壊などにより副腎皮質ホルモンの分泌が不足している病気です。全身の機能自体が低下しており、インプラント手術によるストレスを受けると副腎クリーゼを起こすことがあります。
副腎クリーぜを起こすと、軽症では全身的なだるさや発熱、重篤な場合は血圧低下から意識消失を起こします。
こうしたことから、副腎皮質機能低下症もリスクファクターのひとつとされています。

血液をサラサラにする薬を使っている方

心臓や脳などの血管が詰まらないようにするために、抗凝固薬や抗血小板薬を使っている方がいらっしゃいます。
これらの方は、インプラント手術時に異常出血を招くことがありますが、心臓や脳の血管へのリスクを考え、基本的には薬を中止せずにインプラント手術が行われます。

全身疾患とインプラント治療

最後に、全身疾患とインプラント治療について解説します。

コントロールがよい場合

前述したインプラント手術にとってリスクファクターになりうるさまざまな全身疾患を認めるからといって必ずしもインプラント治療が受けられなくなるというわけではありません。
例えば、高血圧症であってもちゃんと血圧を良い範囲にコントロールできていれば、インプラント治療は受けられます。
他の全身疾患も同様です。
全身疾患があっても、コントロール状況さえ良ければ、たいていの場合インプラント治療は受けられるのでご安心ください。

コントロールが不十分な場合

全身疾患のコントロール状況がよくない方がいらっしゃったら、そのままではインプラント治療は受けられません。
まずは全身疾患の治療を受けていただき、その病気を適切にコントロールするようにしてください。
そうすれば、インプラント治療が可能になります。

まとめ

今回は、インプラント治療と年齢制限について解説しました。
インプラント治療には年齢制限はありません。
しかし、年齢とともに全身疾患にかかる可能性が増すので、全身疾患の内容によってはインプラント治療の手術リスクが高くなります。
全身疾患があるのに適切な治療を受けていない方や、コントロール状態がよくない方は、インプラント治療より、全身疾患の治療を優先しなければなりません。
当院は、インプラント治療に長年携わり、高齢の方の治療も数多く手掛けています。
高齢の方でインプラント治療を検討している方は、当院にぜひお越しください。