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はじめに:なぜインプラントのメンテナンスが重要なのか

インプラント治療で手に入れた「第二の永久歯」。せっかく時間と費用をかけて治療したのですから、できるだけ長く快適に使い続けたいですよね。

実は、インプラントの寿命を左右する最大の要因は、治療後のメンテナンスです。どれほど優れた技術で治療を受けても、日々のケアや定期検診を怠ってしまうと、インプラント周囲炎などのトラブルが発生し、最悪の場合はインプラントを失うことにもなりかねません。

インプラント治療は、失われた歯の機能を回復し、QOL(生活の質)を向上させる優れた治療法です。しかし、長期的に保つためには、適切なメンテナンスが不可欠です。メンテナンスを怠ると、以下のようなトラブルが発生するリスクが高まります:

インプラント周囲炎:インプラント周囲の歯肉に炎症が生じ、骨吸収が進行する
上部構造の破損・脱離:被せ物が破損したり、外れたりする
インプラントの脱落:最悪の場合、インプラントが抜け落ちてしまう

この記事では、インプラントを長持ちさせるために必要な自宅でのケア方法、日常生活での注意点、そして定期検診の重要性について、歯科専門家の監修のもと詳しく解説します。

インプラントを長持ちさせる4つの基本原則

インプラントの寿命を延ばすために、まず押さえておきたい4つの基本原則があります。

1. 毎日の口腔衛生管理を徹底する

インプラントは虫歯にはなりませんが、インプラント周囲炎というトラブルが起こる可能性があります。これは天然歯の歯周病に似た状態で、インプラント周囲の組織が炎症を起こし、最悪の場合はインプラントが脱落してしまうことも。

毎日の丁寧なブラッシングとデンタルフロス、歯間ブラシの使用が、インプラント周囲炎を防ぐ最大の防御策です。

2. 定期検診を欠かさず受ける

自宅でのケアだけでは限界があります。3~6ヶ月に一度の定期検診で、専門家によるクリーニングと状態チェックを受けることが不可欠です。

定期検診では、セルフケアでは取りきれない歯石やバイオフィルムを除去し、インプラントの安定性や噛み合わせの状態を確認します。早期発見・早期対応が、インプラントの長寿命化につながります。

3. バランスの良い食生活を心がける

インプラントは天然歯と同じように使えますが、過度な負担は避けるべきです。硬すぎる食品(氷、硬いナッツの殻など)や、粘着性の高い食品(キャラメル、餅など)は、インプラントに過度なストレスをかける可能性があります。

また、十分な栄養摂取は口腔内の健康維持にも役立ちます。ビタミンCやカルシウムなど、歯周組織の健康に必要な栄養素を意識して摂りましょう。

4. 歯ぎしり・食いしばりに対処する

睡眠中の歯ぎしりや、日中の食いしばりは、インプラントに過度な力をかけ続けます。これは、まるで車を常にアクセル全開で走らせるようなもの。部品(インプラント)の寿命を大幅に縮めてしまいます。

歯ぎしりや食いしばりの習慣がある方は、歯科医師に相談し、**ナイトガード(マウスピース)**の使用を検討しましょう。

自宅でできる正しいメンテナンス方法

必要なケア用具

インプラントのメンテナンスには、以下の用具を揃えましょう:

歯ブラシ

あなたの口腔状態に合ったものを選ぶことが最も重要
歯科医師や歯科衛生士に相談して選んでもらうのがベスト
口の開き具合や歯の角度によって、最適な歯ブラシは人それぞれ異なります
硬すぎる歯ブラシは、インプラント表面を傷つけたり、歯肉を損傷したりする可能性があります
インプラント専用の歯ブラシや、ブラシの毛先が細くて密集しているタイプがおすすめです

デンタルフロス

歯間部の清掃に必須
通常のフロスに加え、インプラント専用フロスもあります
歯科医院で使い方を習いましょう
ノンワックスタイプのデンタルフロスを使用するのが効果的です

歯間ブラシ

インプラントと隣の歯の間の空隙が大きい場合に有効
サイズ選びが重要:小さすぎると効果がなく、大きすぎると歯肉を傷つける可能性があります
インプラントと歯の間の隙間に合ったサイズを選び、優しく使用します

口腔洗浄器(ウォーターピック)

大きな食べかすを流すのに便利
ただし、これだけでは歯垢は完全に除去できません
歯間ブラシやフロスとの併用が必須です
低圧モードを選択し、インプラント周囲に水流を当てるようにします

歯磨き粉

研磨剤の含有量が少ない歯磨き粉がおすすめです
研磨剤が多すぎると、インプラント表面を傷つける可能性があります
低研磨性の歯磨き粉や、インプラント専用の歯磨き粉を選ぶのが良いでしょう

洗口剤

洗口剤を使用することで、口腔内の細菌数を減らし、インプラント周囲炎のリスクを下げることができます。

インプラントに適した洗口剤の例:

クロルヘキシジン配合の洗口剤:殺菌効果が高く、プラーク形成を抑制する
フッ素配合の洗口剤:残存歯のう蝕予防に役立つ
低刺激性の洗口剤:アルコールを含まないマイルドなタイプが適している

重要な注意点:洗口剤だけではプラークはなくせませんので、ブラッシングも忘れてはいけません。

正しいメンテナンスの手順(5ステップ)

ステップ1:歯ブラシによる清掃

  1. 歯ブラシを45度の角度で歯肉に当てる
  2. 小さな円を描くようにして磨く
  3. インプラント表面に付着した歯垢を丁寧に取り除く
  4. 力を入れすぎず、優しく磨くことがポイント

時間の目安: 1本あたり20〜30秒

ブラッシングの順序:

口腔内を区分けして、順番に磨いていきます
一般的には、奥歯から前歯に向かって磨き、上顎と下顎を分けて磨くのが効果的です
インプラント周囲は、特に念入りに磨くことが大切です

磨く時間と頻度:

インプラント周囲を含む口腔内全体を、1日2回、1回につき3分以上かけて丁寧に磨きましょう
歯ブラシを強く押し当てすぎないように注意が必要です
優しい力で、丁寧に磨くことがポイントです

ステップ2:デンタルフロスによる清掃

  1. フロスを歯間部に挿入
  2. インプラントに沿わせるようにして、ゆっくり上下に動かす
  3. 歯肉に押し当てすぎないように注意
  4. インプラントと天然歯の両方の側面を清掃
  5. インプラントの両側から歯肉の際までフロスを挿入し、ゆっくりと上下に動かして清掃します

注意点: 無理に引っ張らず、丁寧に取り出しましょう

ステップ3:歯間ブラシによる清掃

  1. 歯間ブラシをインプラントと歯の間に挿入
  2. ゆっくりと前後に動かす
  3. 無理に押し込まない
  4. 適切なサイズのブラシを使用することが重要

頻度: 1日1回(就寝前が理想)

ステップ4:口腔洗浄器による洗浄(任意)

  1. 適切な圧力に設定(最初は低圧から)
  2. インプラント周囲に水流を当てる
  3. 水流の方向がインプラントに対して垂直になるように注意
  4. 水圧を強くしすぎないよう注意が必要です

ポイント: これは補助的なツールです。フロスや歯間ブラシの代わりにはなりません。

ステップ5:仕上げのすすぎ

  1. 水やうがい薬で口をよくすすぐ
  2. 残った歯垢や食べかすを取り除く
  3. 強くうがいしすぎないように注意

メンテナンスの3つの重要ポイント

ポイント1:自分に合った清掃用具を選ぶ

どの清掃用具が最適かは、インプラントの位置や口腔内の状態によって異なります。必ず歯科医師や歯科衛生士のアドバイスに従いましょう。正しい方法で使用すれば、清掃用具でインプラント表面が傷つくことはありません。

ポイント2:丁寧に、でも優しく

インプラント周囲は丁寧に清掃することが大切ですが、強い力で磨いたり、こすったりすることは避けましょう。力を入れすぎると、インプラント表面を傷つけたり、歯肉を損傷したりする可能性があります。

イメージとしては、赤ちゃんの肌を撫でるような優しさで清掃しましょう。

ポイント3:習慣化が成功の鍵

インプラントのメンテナンスは、毎日の習慣として行うことが重要です。

朝晩の歯磨き:必須
食後の清掃:できれば実施
就寝前のフロス・歯間ブラシ:1日1回は必ず

継続的なケアが、インプラントの長寿命化につながります。最初は面倒に感じるかもしれませんが、2~3週間続ければ習慣になります。

電動歯ブラシの活用

手磨きが困難な場合や、より効果的な清掃を求める場合は、電動歯ブラシの使用を検討しましょう。

電動歯ブラシのメリット:

手磨きに比べて歯垢除去効果が高いとされています
ブラシヘッドは柔らかめのものを選び、過度な圧力をかけないように注意が必要です

舌のクリーニング

舌苔は口臭の原因になるだけでなく、インプラント周囲の細菌増殖にも影響します。

舌クリーニングの方法:

舌クリーナーや歯ブラシを使って、舌表面の舌苔を除去することが大切です
舌の奥から手前に向かって、優しく数回かき出すようにしましょう

治療直後から気をつけるべきポイント

インプラント治療直後は、特に慎重なケアが必要です。この時期の過ごし方が、インプラントの予後を大きく左右します。

治療当日〜3日間

安静を保つ

治療当日は、処置部位を安静に保つことが最優先です。

避けるべき行動:

激しい運動
重いものを持つ
長時間の入浴(シャワーは可)
飲酒

理想的な過ごし方: 自宅でゆっくり休む

食事の制限

治療当日は、麻酔の影響で唇や舌、頬の感覚が鈍くなっています。誤って噛んでしまう可能性があるため、注意が必要です。

推奨される食事:

熱すぎない柔らかい食事
スープ、おかゆ、ヨーグルト、プリンなど
処置部位の反対側で噛む

避けるべき食事:

硬い食品
熱すぎる・冷たすぎる食品
刺激物(辛い食べ物、香辛料)

痛みや腫れへの対応

治療後は、ある程度の痛みや腫れが生じるのは自然なことです。

対処法:

処方された鎮痛剤を適切に服用
腫れには冷やしすぎない程度の冷却
枕を高くして寝る(血流が頭部に集まるのを防ぐ)

注意: 症状が強い、または改善しない場合は、すぐに担当医に連絡しましょう。

治療後1〜2週間

口腔ケアの開始

担当医の指示に従って、優しく口腔ケアを開始します。

処置部位は特に優しく
歯ブラシは柔らかいものを使用
うがいは強くしない

経過観察

定期的に鏡で処置部位を確認し、異常がないかチェックしましょう。

確認すべき点:

腫れの程度
出血の有無
痛みの程度

日常生活での注意点とNG行動

インプラントを長持ちさせるためには、日常生活での小さな心がけが大切です。

喫煙は最大のリスク要因

喫煙は、インプラント周囲炎のリスクを2~3倍に高めると言われています。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、歯肉への血流を悪化させます。これは、まるで植物に水をやらないようなもの。徐々に弱っていきます。

理想: 完全な禁煙
最低限: 本数を減らす努力

インプラント治療をきっかけに禁煙にチャレンジしてみませんか?禁煙外来のサポートを受けるのも一つの方法です。禁煙が困難な場合は、医療機関での禁煙サポートを受けることをおすすめします。

スポーツ時の保護

特にコンタクトスポーツ(格闘技、ラグビー、バスケットボールなど)や転倒のリスクが高いスポーツ(スキー、スケートボードなど)では、カスタムメイドのマウスガードの使用が推奨されます。

マウスガードは、衝撃からインプラントと周囲の組織を守る「クッション」の役割を果たします。

全身の健康管理も重要

インプラントの健康は、全身の健康と密接に関連しています。

糖尿病のコントロール

糖尿病がある方は、血糖値のコントロールが特に重要です。高血糖状態は、感染リスクを高め、インプラント周囲炎の発症率を上げます。

対策:

定期的な血糖値測定
食事療法の継続
適度な運動
内科医との連携

骨粗鬆症の治療

骨粗鬆症の治療薬(特にビスフォスフォネート製剤)を服用している方は、歯科医師にその旨を必ず伝えてください。これらの薬は、まれに顎骨壊死という合併症を引き起こす可能性があります。

ストレス管理

過度のストレスは、歯ぎしりや食いしばりを引き起こし、インプラントに過度な負担をかける可能性があります。

対策:

ストレス管理の方法を身につける
リラックスする時間を作る
必要に応じて歯科医師に相談し、ナイトガードを検討してもらう

やってはいけないNG行動

1. 硬いものを無理に噛む

氷、硬いナッツの殻、骨付き肉の骨など

2. 歯で物を開ける

ペットボトルのキャップ、袋など

3. 爪を噛む習慣

インプラントに不要な力がかかります

4. 定期検診をサボる

「痛くないから大丈夫」は危険な考え方

5. 自己判断で市販の器具を使う

金属製の歯間清掃器具などは避けましょう

6. 片側だけで噛む

両側のバランスを取りながら噛むように心がけましょう

7. 過度な飲酒

口腔内の乾燥を招き、細菌の増殖を促進します

定期検診が欠かせない理由

「自宅でしっかりケアしているから、定期検診は必要ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、定期検診でしか受けられないケアや発見できない問題があります。

定期検診の一般的なスケジュールと通院の重要性

インプラントを長持ちさせるためには、担当医が推奨するスケジュールに沿って通院することが不可欠です。

定期検診の一般的な流れと期間

時期検診の目的と内容
治療完了後1~3ヶ月初回の定期検診。インプラントの状態、上部構造の適合具合をチェックする。
治療完了後6ヶ月2回目の定期検診。インプラント周囲の衛生状態、上部構造を再評価する。
治療完了後1年3回目の定期検診。インプラントの安定性、周囲の骨の状態を総合的に評価し、X線写真による骨の状態確認を行う。
治療完了後1年以降長期的な定期検診。患者さんの口腔内の状態や全身の健康状態に応じて、3~6ヶ月ごとの定期検診が推奨される。

定期検診の4つの重要な役割

1. 早期発見・早期対応

定期検診では、以下の項目を専門的にチェックします:

インプラント周囲の衛生状態
歯肉の炎症の有無
インプラント体の安定性
上部構造(被せ物)の適合状態
噛み合わせのバランス
必要に応じてX線撮影による骨の状態確認

これらのチェックにより、問題を症状が出る前の段階で発見し、適切な処置を受けることができます。

インプラント周囲炎は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。気づいたときには進行していることも。定期検診は、そうした「見えない問題」を見つける唯一の方法です。

2. プロフェッショナルクリーニング(PMTC)

歯科衛生士による専門的なクリーニングでは、セルフケアでは取りきれない歯石やバイオフィルムを除去します。

バイオフィルムとは、細菌がコミュニティを作って歯の表面に形成する膜のようなもの。これは普通の歯磨きでは完全に除去できません。プロフェッショナルクリーニングは、このバイオフィルムを徹底的に除去する「大掃除」のようなものです。

3. 上部構造の調整とメンテナンス

インプラントの上部構造(被せ物)は、長期間の使用で以下のような変化が起こります:

摩耗
微細な変形
ネジの緩み
接着剤の劣化

定期検診では、これらの状態を確認し、必要に応じて調整や修理を行います。適合不良を放置すると、噛み合わせの異常やインプラントへの過負荷につながります。

4. セルフケアの指導とモチベーション維持

定期検診では、あなたのセルフケアの状態を評価し、改善点をアドバイスします。

歯磨きの方法の確認
デンタルフロスや歯間ブラシの使い方のチェック
磨き残しやすい部位の指摘
新しい清掃器具の紹介

また、良好な状態を維持できていれば、それを評価してもらえることで、継続するモチベーションにもなります。

定期検診の頻度

一般的な推奨頻度は3〜6ヶ月に1回ですが、以下の要因によって個別に調整されます:

より頻繁な検診が必要なケース(2〜3ヶ月に1回):

インプラント周囲炎のリスクが高い
歯周病の既往がある
喫煙している
糖尿病などの全身疾患がある
口腔衛生状態が良くない
ブラキシズム(歯ぎしり)の習慣がある
複数のインプラントを埋入した場合や、骨の状態が不良な部位がある

標準的な間隔で良いケース(4〜6ヶ月に1回):

口腔衛生状態が良好
セルフケアがしっかりできている
全身状態が安定している

重要: 担当医が推奨するスケジュールに従うことが最も大切です。自己判断で検診を延期したり、スキップしたりしないようにしましょう。

定期検診の費用と経済的側面

インプラント治療の定期検診は、長期的な安定性を確保するための「投資」と考えるべきです。

定期検診費用の現状

インプラント治療は原則的に公的医療保険の適用外である自由診療となるため、定期検診も原則として保険適用外となり、費用は全額自己負担となります。

検診費用には、診察料、X線撮影料、クリーニング料、咬合調整料などの項目が含まれます。検診内容(簡単な検診、標準的な検診、包括的な検診など)によって費用が異なります。

長期的な費用対効果

定期検診にかかる費用は短期的には負担に感じるかもしれませんが、検診を継続することで、以下のような長期的なメリットがあります。

寿命の延長と再治療リスクの低減:

定期的なメンテナンスを受けている患者群は、そうでない患者群に比べて10~15%高い成功率が報告されています
適切なメンテナンスにより、インプラントの寿命を大幅に延ばし、10年以上の長期にわたって高い成功率を維持できます

経済的効率性:

定期検診を継続することで、インプラントの再治療や修理にかかる高額な費用を節約できる可能性があります
研究では、予防的メンテナンスにかかるコストは、将来的な修復や再治療費用と比較して大幅に低いことが示されており、長期的視点では最も経済的な選択肢と言えます

保証適用の条件

多くの医療機関において、インプラント体や上部構造の保証が適用されるための条件として、定期検診とメンテナンスの受診が義務付けられています。これは、早期にトラブルを発見し、適切な処置を行うためです。

保証を有効に保つためにも、担当医の指示に従い、自己判断で検診を延期・中断しないことが極めて重要です。

定期検診の重要性の比喩

定期検診の重要性を例えるならば、自動車の車検や点検に似ています。

高額な費用をかけて購入した高性能な車(インプラント)も、日常的なオイル交換(セルフケア)や定期的なプロによる点検(定期検診)を怠れば、突然、重大な故障(インプラント周囲炎や脱落)を引き起こすリスクが高まります。

定期的な点検費用を惜しまずに継続することが、結果的に高額な修理費用や事故のリスクを防ぐための最良の投資となるのです。

インプラントと上手に付き合う方法

インプラント治療は、失われた歯の機能を回復するための優れた治療法ですが、長期的な成功のためには、インプラントと上手に付き合うことも重要です。

適切なセルフケアの実践

1. 正しいブラッシング方法

インプラント周囲の歯垢を効果的に除去するために、インプラントの正しいブラッシング方法を身につけましょう。

柔らかめの歯ブラシを使用し、インプラントと歯肉の境目に毛先を45度の角度で当てて、小さな円を描くように磨きます。

インプラント表面を傷つけないよう、優しく丁寧に磨くことが大切です。

2. デンタルフロスと歯間ブラシの使用

歯ブラシだけでは届きにくい、インプラント周囲の歯間部の清掃にはデンタルフロスや歯間ブラシが有効です。

インプラントの両側から歯肉の際までフロスを挿入し、ゆっくりと上下に動かして清掃します。

歯間ブラシは、インプラントと歯の間の隙間に合ったサイズを選び、優しく使用します。

3. 口腔洗浄器の活用

口腔洗浄器は、水流の圧力で歯やインプラントについてる歯垢を除去する器具です。

インプラントと歯の間、インプラント周囲の清掃にも適しています。

低圧モードを選択し、インプラント周囲に水流を当てるようにします。

ただし、水圧を強くしすぎないよう注意が必要です。

生活習慣の改善

1. 禁煙の実践

喫煙は、インプラント周囲炎のリスクを高めるため、インプラントの長期な予後を悪くする大きな要因です。

禁煙は、インプラントの健康維持に不可欠です。

禁煙が困難な場合は、医療機関での禁煙サポートを受けることをおすすめします。

2. 食生活の見直し

インプラントに過度の負担をかけないために、硬すぎる食品や粘着性の高い食品は避けましょう。

バランスの取れた食事を心がけ、十分な栄養を摂取することが大切です。

また、食後のブラッシングを習慣づけ、口腔内を清潔に保ちましょう。

3. ストレス管理

過度のストレスは、歯ぎしりや食いしばりを引き起こし、インプラントに過度な負担をかける可能性があります。

ストレス管理の方法を身につけ、リラックスする時間を作ることが大切です。

必要に応じて歯科医師に相談し、ナイトガードを検討してもらいましょう。

定期的なメンテナンスの受診

1. 定期検診の重要性

インプラントの状態を確認し、早期にトラブルを発見するためには、定期的な歯科検診が欠かせません。

3~6ヶ月ごとに定期検診を受診し、インプラントの状態や口腔内の健康状態をチェックしてもらいましょう。

2. 専門的クリーニングの受診

歯科医院での専門的なクリーニングにより、自宅では取り除きにくい歯垢やバイオフィルムを除去することができます。

定期検診の際に、専門的クリーニングを受けることをおすすめします。

3. 歯科医師とのコミュニケーション

インプラントについての疑問や不安があれば、遠慮なく歯科医師に相談しましょう。

定期検診の際は、セルフケアの方法や生活習慣について歯科医師にアドバイスを求め、適切な指導を受けることが大切です。

こんな症状があったらすぐ受診を

以下のような症状に気づいたら、次の定期検診を待たずに、すぐに担当医に連絡しましょう。

緊急性が高い症状

インプラント周囲の異常

症状疑われる問題と対処法
歯肉の腫れや赤み、出血、触れると痛みを感じるインプラント周囲炎の初期段階。ブラッシング方法の見直しが必要
排膿(インプラントの周囲から膿が出る。口臭が強くなることもある)インプラント周囲炎が重度に進行。外科的処置や抗菌薬の処方、重度の場合はインプラント除去になる

インプラント自体の異常

動揺や揺れ:インプラントが不安定になっている。インプラントと骨の結合が失われている可能性が高い症状。原因を特定し、場合によってはインプラント除去する必要がある
違和感や痛み:鈍痛や咬合時の痛み
噛み合わせの変化:以前と違う感触がある。インプラントに過度の力がかかっている可能性。インプラント周囲炎につながる

上部構造の問題

被せ物の破損:欠けた、割れた
被せ物の脱離:外れた、緩んだ
ネジが緩んだ感じ:カチカチ音がする

これらは咬合調整の不足や過度な咬合力が原因。調整が必要

痛みや違和感

鈍痛や咬合時の痛み。冷たいものや熱いものに対して歯肉が敏感になる(知覚過敏)。
インプラント周囲炎や不適合の可能性

なぜ早期受診が重要なのか

インプラントのトラブルは、早期に対処すればするほど、簡単な処置で済むことがほとんどです。

例えば:

初期のインプラント周囲炎 → クリーニングと口腔衛生指導で改善
進行したインプラント周囲炎 → 外科的処置が必要、場合によってはインプラント除去

早期発見・早期対応が、インプラントを守る最善の方法です。「様子を見よう」と先延ばしにせず、気になる症状があればすぐに連絡しましょう。

まとめ:インプラントと長く付き合うために

インプラントは、適切なケアを行えば10年、20年、それ以上使い続けることができる優れた治療法です。その成功の鍵は、患者さん自身の日々の取り組みにあります。

重要ポイントの振り返り

毎日のセルフケア

歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシを使った丁寧な清掃
1日2回以上の歯磨き
就寝前のフロス・歯間ブラシは必須
舌のクリーニングも忘れずに
電動歯ブラシの活用も効果的
低研磨性の歯磨き粉を選ぶ
洗口剤の適切な使用

定期検診

3~6ヶ月に1回の受診
専門的なクリーニング(PMTC)
問題の早期発見
上部構造の調整とメンテナンス
セルフケア方法の指導

生活習慣

禁煙(またはできるだけ本数を減らす)
バランスの良い食事
硬すぎるものを避ける
歯ぎしり対策(ナイトガード)
ストレス管理
食後のブラッシングを習慣化

全身の健康

糖尿病のコントロール
定期的な健康診断
服用薬の歯科医師への報告
骨粗鬆症の治療薬を服用している場合は必ず報告

あなたのインプラントを守るのは、あなた自身

インプラント治療は、歯科医師と患者さんの「共同作業」です。どれほど優れた技術で治療を受けても、その後のケアを怠れば、長持ちさせることはできません。

逆に言えば、正しいケアを継続すれば、インプラントは一生の財産になります。

インプラントと上手に付き合うことは、長期的な口腔内の健康維持にもつながります。セルフケアと定期的なメンテナンスを継続し、インプラントの恩恵を長く享受しましょう。そうすれば、インプラントと共に健康で豊かな生活を送ることができるでしょう。

困ったときは遠慮なく相談を

セルフケアの方法で迷ったとき
清掃器具の選び方がわからないとき
少しでも異常を感じたとき

どんな小さなことでも、遠慮なく歯科医師や歯科衛生士に相談してください。早めの相談が、大きな問題を防ぐことにつながります。

専門家への相談をお勧めします

この記事で、インプラントのメンテナンスについて理解を深めていただけたでしょうか。

もし、以下のような状況でしたら、ぜひ当院にご相談ください:

インプラント治療を検討中で、メンテナンスについて詳しく知りたい
現在のセルフケア方法が正しいか確認したい
定期検診をしばらく受けていない
インプラント周囲に気になる症状がある

当院では、経験豊富な歯科医師と歯科衛生士が、あなたのインプラントを長持ちさせるためのサポートを全力で行います。
一緒に、あなたの「第二の永久歯」を守っていきましょう。